柔らかな春の光に包まれて、兵庫県立大学はここに学部学生1300名、大学院生503名、合わせて1803名の、個性豊かな学友を迎えることができました。
厳しい新型コロナ禍の影響が残るなか、くじけることなく真摯な努力を続けられ、晴れてご入学、進学を勝ち取られたみなさんに、大学を代表して敬意と祝福を表します。また、みなさんの成長を心待ちにされていたご家族や関係者のかたがたに、心よりお慶びを申し上げます。
本日の入学式には、兵庫県知事齋藤元彦さま、兵庫県議会議長浜田知昭さまをはじめ、多くのご来賓のみなさまが、お祝いに駆けつけてくださっています。ご来賓のみなさま、若者の成長を見守ってくださった地域のみなさまに、改めて御礼を申し上げます。
兵庫県立大学は平成16年、特色ある神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の県立3大学が統合して発足、昨年、創立20周年を迎えました。歴史の一番古い神戸商科大学の前身、旧制神戸高等商業学校の設置にまで遡ると、100年近い歴史と伝統を有しています。
現在では6学部、9大学院研究科、5附置研究所、附属中学?高等学校を擁する、全国屈指の公立総合大学となっており、在籍する学生?院生数は現在、約6,700名、これまでの卒業生?修了生は旧3大学を合わせると7万人を超えます。
本学が位置する兵庫県は、北から但馬、丹波、播磨、摂津、淡路の旧五国から構成されており、地域により気候?風土が大きく異なることから、日本の縮図と言われています。新入生のみなさんは、この広い兵庫県内に点在する多様性に富んだ9つのキャンパスに分かれて勉学に励み、感性を研ぎ、誠実でたおやかな人間力を涵養することになります。
本学には多彩な学部?大学院構成に加え、本学の特色を活かした教育プログラムとして3つの副専攻、「地域創生リーダー教育プログラム」、「グローバルリーダー教育プログラム」、「防災リーダー教育プログラム」があります。学際的、課題探求的な学びを深め、学部の枠を超えた友人を得ることができます。ぜひ挑戦してください。
本学はソーシャルデータサイエンス、高度産業科学技術、自然?環境科学、地域ケア開発、先端医療工学の5つの分野で附置研究所をもち、加えて、口径2mという国内最大級の「なゆた」望遠鏡や放射光施設「ニュースバル」など、他大学にない大型研究施設を独自に保有、国際的な共同研究や産学連携の推進に活用しています。また播磨理学キャンパスや神戸情報科学キャンパスでは、世界最先端の大型放射光施設「SPring-8」やスーパーコンピュータ「富岳」と連携した教育?研究を展開しています。
森林動物の保護管理や丹波竜で有名な「人と自然の博物館」、豊岡市の「コウノトリの郷公園」、淡路島の「景観園芸学校」、HAT神戸にある「阪神?淡路大震災記念人と防災未来センター」など多彩な兵庫県施設には、本学の大学院が併設されており、独創的な研究成果をあげるとともに、市民を対象にした幅広い学びの機会を提供しています。みなさんもぜひ、本学が誇るこれらの教育?研究機関を訪問し、新たな視点を得てください。
大学の存在理由について教育、研究、社会貢献の観点から少し触れておきます。一つ目の存在理由は、変貌する時代の要請に応える高度な専門性と深い教養、的確な判断力と国際対話力を有し、自立したしなやかな知性を育てることです。みなさんは学問を通して自己を成長させ、グローバルで複眼的な思考とアントレプレナー精神を身につけてください。
大学の二つ目の存在理由は、世界が直面するさまざまな課題の解決に学際的,実践的な研究活動を通して貢献することです。科学技術に国境はありません。イノベーションを加速させるためには総合知が不可欠です。産官学連携を世界レベルで推し進め、スタートアップ支援を受けた大学発ベンチャーなどを通して、その成果を広く社会に還元していきます。
大学の三つ目の存在理由は、豊かで多彩な未来社会のビジョンを示し、新たな価値と希望を生み出すことです。本学は、SDGsに謳われている"No one left behind(誰ひとり取り残さない)"の考え方を基底に据え、地域から信頼され世界に通用する学知の空間を目指して、学生ファーストの視点から創造的改革を加速させていきます。
ここで、現代社会の動向と大学への影響について少し言及しておきます。みなさんはAIに代表される情報科学技術の急速な進展や、世界各地で激化する紛争、また地球的規模で生物多様性の危機が叫ばれる、将来の予測が困難な時代に生きています。
DX(Digital Transformation)は私たちを取りまく社会環境を一変させ、教育のかたちを根底から覆しました。ビッグデータを駆使するAIは、論文の作成はおろか、画像、映像に至るまで瞬時に作成する力を持ち、工学や医療分野におけるシミュレーション?実験でも、技術革新に大幅な時間短縮をもたらしています。情報科目を高校で学んだ最初のデジタル世代に当たるみなさんは、情報科学技術の功利性に目を奪われるだけでなく、氾濫するフェイクを見抜き自ら考え判断する力critical thinkingと、重層的な思考から対案を提示する力creative thinkingを、大学生活を通してしっかり錬磨してください。
検証が困難で客観性をもたない安易なことばに流されることなく、真実に近づく努力を惜しまないでください。思慮のないことばは人の心を傷つけます。自分のことばに責任を持つこと、ことばには責任が伴うことをしっかり心に留めてください。
ウクライナやガザ、ダルフールという名前を挙げるまでもなく、世界各地で繰り返される戦争やテロリズムは、多大な犠牲者や難民を生み出し、人間精神を蝕み続けています。関税戦争に表象される自国第一主義、国際協調路線から力の外交への転換は、排外的ショービニズムの流れを加速させ、多様性を掲げDEI(Diversity, Equity and Inclusion)を積極的に推進してきた大学にも荒波が押し寄せています。
新型コロナ禍は、国境を越える移動に大きな制約を課す一方で、学ぶ場所を選ばない授業のオンライン化や、世界の大学と結ぶ国際共同プログラムの開発を押し進め、時空間を超えた高等教育へのアクセスを保障する大きな契機となりました。私たちはこれからも世界の学術機関と結び、学問の自由と調和を守り、人々の間に壁を作るのではなく橋を架ける、多様性豊かな地球の未来に責任をもつ若者を、育てていきます。
地球環境に目を向けると、100年に一度しか生起しないような大規模気象災害が多発し、甚大な被害をもたらす地殻変動と相まって、私たちの生活や社会基盤を掘り崩しています。カーボンニュートラルを基軸とするGX(Green Transformation)への取り組みが進んでいますが、気温上昇を止めるための1.5℃の約束を実現するには遠く、地球は沸騰しつつあります。
国際社会の一致した目標であるSDGsの達成に赤信号を灯しているこれらの危機に立ち向かい、人間の自由と尊厳が守られる公正な社会を実現するために、私たち地球市民は叡智を結集し、お互いを信頼し支え合いながら行動しなければなりません。
非暴力不服従運動でインドを独立に導いたマハトマ?ガンディーが1930年に収監された際、弟子たちに送った「獄中からの手紙」に、「良いことはカタツムリのように進む(Good travels at a snail's pace.)」という一節があります。待つこと、立ち止まること、遠回りすることがあっても、歩みをあきらめないことです。
大学はみなさんをひとりの大人として扱い、自分の行動に責任をもつことを求めます。社会の規範を守り、しっかりした自己管理のもとで、生きていくための輪郭を大学生活のなかで形づくってください。大学は多様な感性を持った他者と出会い、自己を相対化できる場所です。大学時代に得た友人は生涯の友になると言われています。互いに切磋琢磨できる多くの学友に出会ってください。
私たちには忘れられない日付と時間があります。1995年1月17日午前5時46分。阪神?淡路大震災から今年で30年、私たちは災害に備えること、想定外に備えることを教訓とし、国内外から差し伸べられた多くの温かい手に支えられて、創造的復興(Build back better)に取り組んできました。阪神?淡路大震災を経験していないみなさんにも、未来の人たちの命と心を守る責務があります。
20世紀を代表するドイツの劇作家ベルトルト?ブレヒトは1920年9月15日の日記に、「私たちが作るのは商品ではない、贈り物だ」と書き留めています。みなさんは私たちが未来に届ける大切な贈り物です。ともに迷い、ともに苦しみ、喜びを分かち合い、恵まれた幸運にともに感謝しながら、混迷する世界に新たな価値と希望を生み出すために、手をたずさえて進んでいきましょう。
Together, we can change the world for the better.
おめでとう。兵庫県立大学にようこそ。
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兵庫県立大学学長
髙坂 誠(Makoto KOSAKA)