X‐rays ― Illuminating the unknown
私たちの目に見えない世界を映し出すX線。医療や工業分野で広く活用されるこの技術は、実は最先端の科学研究においても欠かせない存在です。未知の世界を照らし出すX線の力を使って兵庫県立大学が取り組む研究をご紹介します。
兵庫県立大学が保有する放射光施設「ニュースバル」を活用し、X線やガンマ線の発生に関する研究に取り組んでいます。本研究の中心は、電子加速器の高度化と高エネルギー電子によるシンクロトロン放射光の安定発生であり、特にX線の生成とその品質向上を主要な目的としています。電子加速器を用いて電子を光速に近い速度まで加速し、強力な放射光を発生させる技術の開発を進めています。
具体的には、次の三つの領域で研究を推進しています。第一に、電子加速器の高度化です。加速器の性能向上と放射光の安定供給により、放射光を利用する研究者が最先端の研究を進められるよう支援します。第二に、ガンマ線光源の開発とその応用研究です。通常、放射光ではX線までしか発生しませんが、レーザーと電子ビームを衝突させることで、より高エネルギーのガンマ線を生成する技術の開発に取り組んでいます。第三に、機械学習を活用した加速器運転の自動化です。従来は運転員の知識や経験に頼っていた加速器調整を機械学習によって自動化し、より効率的で高精度な運用を目指しています。
放射光は、半導体製造、材料分析、蓄電池の研究など、多くの産業分野に不可欠な技術です。そのため、「ニュースバル」では研究の推進にとどまらず、学生の教育?研究の場としても活用し、未来の放射光科学を担う研究者の育成に努めています。
加速器の安定運用には高度な技術と精密な調整が求められますが、運用技術の進化により、外部の研究者や企業ユーザーもより効率的に研究を進められるようになります。その結果、研究活動のさらなる活性化が期待され、新技術や新製品の開発につながる可能性が高まります。
私たちは、放射光科学の発展に寄与し、科学技術の進歩と社会への貢献をさらに加速させることを信じ、今後も研究を続けていきます。
拡大する研究
短波長X線が切り開く磁石の未来
和達 大樹教授
理学研究科所属(研究者情報はこちら)
レーザーを用いて磁石の性質を調べる研究を行っています。1ミクロン以下のスケールで磁石の詳細を観察し、ピコ秒以下の短い時間範囲で原子を観察することを目指しています。特に、磁石の向きをレーザーで変える技術に挑戦しており、そのメカニズムを解明するためにX線を活用。磁石を高精度で分析するための実験で用いるX線は、大学の実験室内で自ら開発したシステムを使って発生させています。もし磁石の向きを変える技術が実現できれば、新しい磁石の開発や応用に繋がる可能性があります。また、より短い波長のX線を発生させる技術が進化すれば、磁石や電池、その他の素材解析にも貢献できるはず。この研究は、世界でもここ数年で非常に盛り上がりを見せている研究テーマです。将来的には、短い波長のX線技術の更なる発展を目指し、世界的な研究の流れに乗り遅れることなく、日本国内でも技術革新を支える研究を進めることを目指します。
※1: 1ミクロン(1?m)は、1マイクロメートル(1 micrometer)のことで、1,000分の1ミリメートル(0.001mm)の長さ
※2:ピコ秒(ps, picosecond)とは、1兆分の1秒の時間単位
X線×AIが達成するのは医師の負担軽減とミスのない診断
小橋 昌司教授
工学研究科?先端医療工学研究所所属(研究者情報はこちら)
私は、AIを活用したレントゲンやCT画像の診断支援を研究しています。現在、X線を用いたレントゲンやCT画像から患者の病気を診断する作業は、医師が目視で行うケースが多いです。そのため、診断の精度は担当する医師の知識と経験に依存しており、人が行う行為である以上、どれだけ注意をしていても望まないミスは起こってしまいます。そこで、AIを導入することで、知識と経験に依存しない診断支援が可能になると考えました。例えば、AIがサポートをすることで、骨折診断では見落としがちな小さな骨折を特定するなど、より正確な診断ができるように。それだけでなく、画像には写っていない将来の病気を予測することも可能なため、病気の早期発見にも貢献します。現在、技術は約8割完成しており、実証実験を実施中。医療現場に広く適用するにはさらに実証が必要ですが、数年以内に実用化され、医療現場に大きな変革をもたらすことでしょう。
注目の人 -Person-
極小の磁力変化を、超短時間の光で追う
超短時間の光を使う高次高調波発生(HHG)という技術を活用し、スピンという粒子が持つ小さな磁力の変化をとらえる実験を行っています。スピンの動きを詳しく知ることで、コンピュータの記憶装置や省エネの電子機器に役立つ可能性があります。光の通り道をミリ単位で調整するなど装置の微調整が難しく、試行錯誤の連続でしたが、初めて赤外線からX線の発生に成功、観測できた時の喜びは格別でした。今後も光の可能性を追求し、新しい技術の開発に挑戦していきたいです。

極小の磁力変化を、超短時間の光で追う

塩川 裕斗さん
理学研究科 博士前期課程2年
放射光研究の可能性を拓く、ガンマ線の強度向上に挑戦
レーザーコンプトン散乱 (LCS) を用いた高エネルギーガンマ線の強度向上を目指しています。LCS ガンマ線は、世界でも限られた施設でしか生成できない光源であり、ニュースバルだからこそ実現可能な研究です。強度が向上すれば、実験の効率が飛躍的に向上します。たとえば、ガンマ線の強度を2倍にできれば、実験に必要な時間を半分に短縮することが可能です。さらに、研究が進むことで、放射線廃棄物問題や医学分野での応用も期待されます。研究を通じて得た経験を活かし、社会全体に価値を生み出す人材になりたいと考えています。
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放射光研究の可能性を拓く、ガンマ線の強度向上に挑戦

平川 悠人さん
工学研究科 博士前期課程2年