Food & Life
私たちの暮らしに欠かせない「食」。そこには、文化や健康、環境との深いつながりがあります。健康を支える栄養の働きや、地域に根付く食の知恵、持続可能な食資源の活用など、多角的な視点から「食」を支える最前線の研究をご紹介します。
ビタミンDは、単なる栄養素ではありません。体内で活性化されることで遺伝子の発現を調節するなど、さまざまな生理機能に関わる重要な役割を担っています。特に小児におけるビタミンD欠乏は”くる病”(骨の成長障害)を引き起こします。一般的には、ビタミンDはカルシウムやリンの吸収効率を向上させると知られていますが、それだけでなく、筋肉、免疫機能など様々な生体機能および細胞機能に関連していることが報告されています。
私の研究では、ビタミンDがどの遺伝子に作用し、それが健康や老化にどのように関わるのかについて明らかにすることを目的としています。
例えば、遺伝子組換えによってビタミンD作用を失ったマウスと、通常のマウスを比較することで、ビタミンDの影響を明確にすることが可能になります。我々の研究室では、細胞実験を用いて、ビタミンDが細胞の中でどのように機能し、遺伝子の発現を制御するのかについて研究しています。
近年、日本人のビタミンD摂取量は低下傾向にあります。食生活の変化により、ビタミンDが豊富な魚の摂取量が減少しているためです。現代の日本人では、潜在的なビタミンD不足が危惧されており、我々の健康に影響している可能性があります。
そのため、この研究を通じて、ビタミンDがどのように健康寿命を延ばすのか、どのような食生活が健康長寿につながるのかを科学的に解明し、将来的には具体的な健康指導や栄養政策に役立てたいと考えています。
私の研究は基礎研究が中心ですが、その成果が積み重なることで、将来的には医療や栄養学に応用される可能性があります。健康寿命を延ばしたり、生活習慣病を予防したりするための新しいアプローチが生まれるかもしません。
「食事が未来の健康をつくる」という視点から、科学的根拠に基づいた健康維持の方法を提案できるよう、これからも研究を続けています。
拡大する研究
食育が育む、健康と地域のつながり
アスマン 寺田 シュテファニー 教授
国際商経学部所属(研究者情報はこちら)
食文化と食育をテーマに研究を行っています。特に、学校給食を通じた食育の実践方法や、地域社会における食を介したコミュニティの形成に関心を持っています。2017年から2019年にかけて、大分県竹田市で現地調査を実施。学校給食の観察や、60歳以上の男性向け料理教室、多世代交流のロングテーブルイベントなどを調査しました。研究では、食育が単なる栄養教育ではなく、道徳教育や地域の活性化とも結びついている点に着目。また、日本の食育を国際的な視点から捉えることも重要だと考えています。日本に住む外国人の増加に伴い、和食だけでなく、多文化共生の観点からの食育の在り方を探る必要があります。今後は「食と移民(フード&イミグレーション)」の関係にも焦点を当て、食育の新たな可能性を探求していきます。
廃棄物を資源に。微細藻類の可能性
伊藤 和宏教授
工学研究科所属(研究者情報はこちら)
私は、微細藻類の大量培養技術を研究中。微細藻類は植物プランクトンとも呼ばれ、バイオ燃料としての活用が期待されているほか、健康食品や食用色素、二枚貝の餌などに利用されています。食料生産に用いるには多くの微細藻類が必要となりますが、雑菌や捕食者の影響、温度や栄養管理の難しさから、その大量培養は困難とされてきました。しかし、発電所で廃棄される木質バイオマス燃焼灰を、酸で中和?濾過?希釈することで、海洋性藻類の栄養源になることを発見。大量培養に向けて大幅なコストダウンに成功しました。この研究は、例えば牡蠣や浅利など、兵庫県の水産養殖の発展に貢献するだけでなく、光合成による燃焼灰のクリーンな再利用という持続可能な資源活用の可能性も示しています。今後も研究を進め、食と資源を守る新たな技術の確立を目指します。
注目の人 -Person-
地域の味を保存し、未来へ繋ぐ
日本の水産業や和食文化に関心があり、海と食の問題を考える「The Blue Camp」に参加しました。その後も、異なるバックグラウンドを持つ留学生の友人から刺激を受け、イタリアの世界的な食の祭典の日本代表使節団の一員になるなど、国境を越えた「食」の活動に積極的に参加。大学では、日本酒を活用した地域復興や酒ツーリズム、食品認証制度をテーマに研究を行っています。将来はイタリアで農村復興を学んだのち、地元の長野をはじめ、日本全国で地域の味を未来に繋ぐ活動を行うことが目標です。

地域の味を保存し、未来へ繋ぐ

五味 陽大さん
国際商経学部 3年
食の力で腸機能の低下を防ぎ、次世代の老化予防へ
健康寿命の延伸に貢献することを目的とし、加齢による腸機能低下のメカニズム解明に挑戦中。消化管の機能低下が加齢性疾患のリスクを高めると考えられ、超高齢社会の日本における大きな問題となっています。私はモデル動物を用いて加齢が起因となる腸の変化を分子レベルで解析。食事による腸機能の改善策を探求しています。将来的には、腸の健康を維持する抗老化食品の開発につなげ、人々が長く健康に生きられる社会を実現したいです。

食の力で腸機能の低下を防ぎ、次世代の老化予防へ

網野 鈴夏さん
環境人間学部 4年