Hydrosphere

#生物多様性 #進化 #天気予報 #台風 #地殻変動 #ジオパーク

地球上のあらゆる生命と環境に深く関わる「水」。海洋や湖沼、河川など、私たちの身のまわりに存在する水圏は、動植物の生息の場であるだけでなく、気候や地形形成などにも大きな影響を与えています。水がもたらす変化とその影響に注目し、多様な視点からアプローチする研究をご紹介します。

進化の瞬間をとらえる。
タンガニイカ湖の生態系研究

高橋 鉄美 教授

自然?環境科学研究所所属(研究者情報はこちら

アフリカのタンガニイカ湖に生息する固有種のシクリッドという魚を題材に、生物の種分化と進化について研究中。特に、シクリッドの一種であるテルマトクロミス?テンポラリスには、「普通型」と「矮小型」という2つのタイプが存在し、体の大きさや生息環境が異なります。この違いがどのように生まれ、それが種分化につながるのかを解明することが目的です。

研究手法は多岐にわたります。1つは現地調査で、実際に湖を訪れダイビングを行い、生態を観察。異なる生息地で調査することで、環境による個体や行動の違いを明らかにします。また、水槽実験を通じて、異なるタイプの魚が交配するかどうかを確認します。交配が起きなければ、生殖隔離が働いており、種分化が進行している可能性が高いと考えられます。さらに、遺伝子解析によって、種分化に関与する遺伝子を特定することも行っています。

進化の過程は通常、長い時間をかけて進むため、すでに種分化が完了した生物ではその過程を直接観察できません。しかし、タンガニイカ湖では現在進行形で種分化が起こっており、進化のメカニズムを解明する上で非常に重要な研究対象です。

この研究が進むことで、生物の多様性がどのように形成されるのかを理解できるようになります。例えば、環境の違いによって生まれる体の特徴や行動の変化が、新しい種の誕生にどう関与するのかが明らかになる可能性も。これは進化の仕組みを解明するだけでなく、環境変化が生物に与える影響を知る上でも意義があります。

しかし、簡単に結論が出るわけではありません。普通型と矮小型の違いが遺伝的なものか、それとも環境による影響かを証明する必要があります。今後は、この種分化の仕組みをより詳しく解明するとともに、タンガニイカ湖の他のシクリッドでも同様の現象が見られるかを調査し、進化の法則をより広く理解することを目指しています。

拡大する研究

水と空気の流れを解明し、気象を予測?制御する

高垣 直尚教授

工学研究科所属(研究者情報はこちら

水や空気の流れを分析し、台風や海の波の動きを予測?制御する研究を行っています。例えば、台風は自然災害の一つですが、その進路や強度を予測することができれば、被害を抑えることができます。台風の進路はスーパーコンピュータで気圧配置を再現できるようになったことにより、予測の精度が大きく向上しました。一方で、強度予測についてはまだあまり向上していないのが現状。そこで、強度予測の精度を向上させるため、大型水槽を用いて、台風時の海水面のシミュレーション実験を行っています。実験では、風速?水温?湿度など、約60種類のデータを解析。界面活性剤を使用し、海水の変化が気象に与える影響についての研究も行っています。また、テトラポットなどの人工構造物が海岸の地形を変化させることによって、気象にどのような影響を与えるのかについても調査中。最終的には、開発した予測モデルを天気予報に組み込み、防災や交通機関の判断精度を向上させることが目標です。


ジオパークで伝える日本海誕生の歴史

松原 典孝講師

地域資源マネジメント研究科所属(研究者情報はこちら

地質学を専門とし、日本海拡大期の地質を中心に地域の地質と文化のつながりや地質遺産の保全?活用について研究しています。日本列島はもともとユーラシア大陸の一部で日本海はありませんでした。しかし、 約2500万~1500万年前の地殻変動により大陸から切り離され、海が誕生。その過程で山陰地方の地質が形成されました。私は日本海拡大期にどのように地層や岩石ができたのかを研究し、沿岸部の地質の成り立ちや変遷を解明したいと考えています。調査では、実際に海岸を歩いたり、カヌーを用いて海から岸壁に近づい たりして、地層や岩石の分布を記録し、年代測定や岩石の強度分析を実施。また、研究成果を社会へ広めるため、ジオパークの活動にも注力し、観光資源 としての日本海やその周辺地域の魅力も発信しています。日本海の誕生は風景?漁業?文化など地域社会に大きな影響を与えました。研究を通じて、多くの人にその価値を伝え、地球科学への理解を深めてもらうことを目指します。 

注目の人 -Person-

休耕田ビオトープで生物多様性を守る

耕作放棄田を活用した休耕田ビオトープの管理手法について研究中です。水田環境に生息するゲンゴロウやタガメなどの水生昆虫類の保全を目的に、休耕田ビオトープが繁殖地として機能するかを検証。6月の代掻きにより開放水面を創出すると、タガメなどの飛来数が増加することを明らかにしました。水田の耕作放棄が進む中で、生物多様性保全や防災にも貢献できるビオトープの管理手法を提言し、持続可能な管理体制の構築に繋げることを目指しています。

休耕田ビオトープで生物多様性を守る

渡辺 黎也さん

地域資源マネジメント研究科 博士後期課程2年

絶滅危惧種の命を守る、生態調査と環境保全

私は定年退職後、魚類について学び直すため本学に入学しました。日本固有種であるニッポン日本固有種であるニッポンバラタナゴ(魚類)の生態と保全に関して研究を行っています。本種は外来種との交雑により純系個体が激減し、絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されています。現在、兵庫県の限られた池で生息状況や産卵生態を調査し、科学的知見を蓄積しています。また、企業や学校と協力し、ビオトープでの域外保全にも挑戦中。研究を通じて、生息環境の改善と地域の保全活動の推進を目指しています。

絶滅危惧種の命を守る、生態調査と環境保全

谷本 卓弥さん

環境人間学研究科 博士前期課程3年(社会人入学)

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